学術集会・セミナー

日本神経消化器病学会 名誉理事長のご挨拶

佐藤信紘(順天堂大学名誉教授)

皆さん、お腹が第二の脳(Second brain)と呼ばれるのをご存知ですか?脳(中枢神経系)が身体や心の働きの中心であることは言うまでもありませんが、お腹には脳に匹敵する神経細胞が存在し、脳と連携しながらお腹の働きを自律的に司っているのです。
お腹は食べ物を消化してエネルギー源にする働きと同時に、食べ物でない異物を認識して体外へ放出する免疫の働きを無意識のうちに行っています。また、必要量以上の食べ物を食べると摂食を止め、吸収・代謝・同化・異化まで調節します。お腹から脳へ、神経やペプチド因子という内分泌系を介して指令を出すのです。さらに、飢餓で摂食が減りますと脳からお腹へ指令が飛んだり、お腹から神経系や内分泌系を介して脳に作用して摂食中枢を刺激します。
 このようにお腹と脳が、神経系を中心として内分泌・免疫因子を介してやり取りするのを脳腸相関といい、脳へのストレスなど心理的因子はお腹に著しい影響を与えます。また、お腹の不調が脳の働きにも影響します。ストレスによる病気がお腹の症状を伴い、お腹の調子が悪いと元気が出ないのは、こういった理由によります。
 
最近、お腹の症状を訴えるのに内視鏡などの検査をしても病変が見つからない病気が世界中で増えているのがわかりました。このような病気を機能性消化管疾患(Functional Gastrointestinal Disorders, FGIDs)といいます。わが国では、10年ほど前に胃腸の働きの機能的な異常を消化管運動の面から研究するグループが「日本国際消化管運動研究会」という学術団体を作り、病気の解明を進めてきました。一方、ストレスなどによる目で見えない消化器の病気をお腹の神経系と脳とのやり取りの異常と捉えるグループが、「日本Neurogastroenterology(神経消化器病)学会」を創設し、8年が経ちました。

その間、お腹の症状は胃腸運動の異常のほかに、食べ物・腸内細菌などに由来する目に見えない炎症や情動ストレスなどにより、お腹の神経と脳神経機能が複雑に絡み合って、感じ方(内臓神経知覚)が過敏となって生じることも分かりました。また昨今のペットブームのもと、動物のお腹の症状が動物の心の動きと関係があることも判明しました。さらに、牛豚など食用動物の飼育や繁殖にも動物のお腹と神経の働きが関係を有することも分かりました。

そこで、医師・医学者のみならず獣医学者や薬理工農学系の研究者たちが集まって、前2者を統合した新たな学術団体「日本神経消化器病学会」という学会を作ることにしました。私は前述しました後者の学術団体をお世話してまいりました関係で、新学会のまとめ役を仰せつかった次第です。
本学会は、目に見えないお腹の症状を有する方々の病気の治療・予防さらに健康増進のために、本症の発現機序解明と治療薬の開発、さらに食やサプリメント科学など種々な周辺医療の分析評価を行い治療や予防・健康増進への適応を図るとともに、ペットや食用動物の適切な飼育・摂餌・繁殖などにかかわる研究を通して、学術的・社会的貢献を図るのを目的にしています。また国際的には、欧米の先駆的な医師・研究者の集まりであるローマ委員会や欧米・アジアの関連学会と連携して、本領域に関心のある皆さんに国際情報をお伝えするとともに、国際的な学会などに積極的に参加することにより学術貢献を果たせるように努力する所存です。本領域に興味を有する消化器・代謝系や神経・内分泌・免疫系を専門とする医師・研究者・医療従事者や獣医農学者、さらに創薬にかかわる研究者や食品化学者などの参加を強く呼びかける次第です。

どうか、上記の趣旨を御理解頂き、本学会への皆様方のご参加とご支援を心からお願い申し上げる次第です。有難うございます。

(2009年2月16日記)

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